初夏の清々しい風が工房を通り鳥たちが賑やかに囀っている。さまざまな鳥の声、いったい何種類の鳥がこの辺りに棲んでいるのだそう。ときおり川原に車が通る。シャー、しばらくしてガタンガタン、すれ違いもあまりなく、本当にときおり。気をつけて聞いていると車種それぞれで違う音がする。
のどかな昼下がり。野薔薇は花が終わり実、すなわちローズヒップがへと移り変わる。
昨年の今頃は野薔薇の茎葉で染めた。野薔薇はどの天然繊維とも相性がよくこの日も麻、綿が綺麗に染まった。植物の灰汁を用いて辛子色となり、鉄と酢をベースに作ったお歯黒媒染では濃いネズとなる。
染めという字を紐解くとサンズイは水、漢数字の「九」はもともと「乃」と書き、木と合わさり「朶」という文字となります。これは木の枝葉が垂れ下がっている様子です。「染め」という一字が「植物、草木で染めること」を表しているのです。
「草木染」という言葉が生まれた時のことをご説明します。
「草木染」という言葉が生まれたのは昭和5年、合成染料との区別のために山崎斌氏が命名され、今日も多くの人が植物で染めることを「草木染」と自由に呼ぶことができ、当たり前のように使われています。昭和7年に商標登録されていますが、誰もが自由に植物で染めることを「草木染」と呼んでいて、その方法は多々あれど何も問われることはなく浸透しています。
古代から「染め」は行われており、文字通り草木で染めていたものもあれば土や貝を用いて染められていたものもあると言われています。そして時を経て、染め方、色彩が多様になります。平安時代の雅な色、鎌倉、室町の侘び寂びの渋い色、江戸時代の木綿と藍の普及、技術ですと型染め、絞り、絣、糸染めなどその時代の流行りや暮らしを垣間見ることができます。
明治に入り合成染料が輸入され、およそ30年という短期間でほとんどの染色は合成染料で行われるようになります。その後第一次世界大戦でドイツから染料の輸入が途絶えます。そのことがきっかけとなり古代からの植物染料の研究がはじめられることなります。 繰り返しますが非常に短期間に「染める」ことが合成染料、つまり化学合成により人工的に作られた染料で行われるようになり、戦争により合成染料の輸入が途絶えたことがきっかけで古来からの植物による染色の研究が始まり合成染料と区別するために「草木染」という言葉が誕生したのです。
草木染という言葉がこれだけ広く使われるようになったこと、当たり前になっていることは素晴らしいと思っています。ただ一方で植物を使って染めていたら「草木染」と呼び、本来ならば染めの相性としてよくない繊維と植物を助剤を用いて色づけたり、染料としては向いていないかもしれない植物を多くのエネルギー、時間をかけて煎じる、染めるために大量の植物を採取する、を用いて染めている方もいらっしゃって、それは古代の染めを研究した上で生まれた「草木染」と一緒でいいのかなぁと、時折モヤっとした気持ちになるのです。
たとえ小学生でも、初心者でも綿や麻に相性がいい植物、絹やウールと相性がいい植物、その仕組みをきちんと学び伝えることも大切でとても面白いことなのです。
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